カート・コバーンの機材
アンプ・エフェクター編はこちら
91年にリリースした「Nevermind」で80年代のHR/HMの余韻を引きずっていた音楽シーンを一気に変え、
グランジというジャンルを作り出したNIRVANA。同じシーンで活動していたマッドハニー、サウンドガーデンなどのバンドも注目され、90年代のオルタナブームの先駆けともなりました。
94年にカートは死去してしまいましたが、20年以上経った現在でも彼の人気が衰えることはありません。そのフロントマンであるカート・コバーンの機材を紹介します。
再現するなら
カートの機材は基本的にシンプルで、リアにハムバッカー(中域を強く出せるタイプ)を搭載したギター(ジャガーやムスタング、ストラトなど)+ディストーション+コーラス+アンプ。
イン・ユーテロ期にはこれにコーラス/フランジャーが加わるものの、ほぼほぼ(特にNEVERMINDの楽曲は)上記の組み合わせで大丈夫。
もし普通のストラトやムスタング、ジャガーしか持っていない、または改造したくない、という人は、シングルサイズのピックアップもあるので、こちらがおすすめ(カートが使用したギターでも搭載されていたものがある。)
詳しくは後述するが、カート本人の機材はフェンダーのギターのリアにセイモアダンカンのJBかディマジオのスーパーディストーションをマウントしたもので、ディストーションは初期はBOSS DSー1、破損してからはBOSS DS-2のモード1チャンネルを使用。
コーラスはキャリアを通してElectro Harmonix Small Clone。アンプはメサブギーのプリアンプ。 だが、チューブアンプならば(結局エフェクターで歪ませるため)あまり差は出にくいと思われる。
GUITAR
主にFender製のギターを使用。USAだけではなく、Japanのギターも好んで使用していた。ほかにもモズライトのコピーモデル、GibsonのSGなども意外なところで使用している。リアはほぼハムバッカー、もしくはシングルサイズハムに換装されており、出力の高いハムでパワーと音の厚みを出すために使用していたと思われる。
流行や人気などではなく、自分に合うギター、比較的安価なギターを好んで使用していた。
・FENDER USA
・Fender Jaguar Custom ’65
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— Fender® (フェンダー) (@Fender_Official) 2014年4月19日
カートの代名詞と言っていいほどの65年製ジャガー。カラーはサンバースト。
シリアルナンバーはL95747。
ブリッジはシャーラーの黒いチューン・O・マチックに換装。
カートはこれを91年に新聞紙のリサイクル広告で見つけ、購入。購入時には既にハムバッカー、フロント、リアのボリューム、トーンの3つのコントロールに換装してあるという、特異なスペックのジャガー。
ネヴァーマインドのレコーディングに数曲使用。イン・ユーテロのレコーディングではメインで使用された。
コントロール部分には黒いテープが貼られており、手が当たって切り替わらないようにするためだと思われる。
ヘッドロゴはジャガーにはないスパゲッティ・ロゴに張り替えられている。
ピックアップはフロントがディマジオのPAF,リアがスーパーディストーションであったが、リアを93年にSeymour DumcunのSH-4 JBに換装。
妻のコートニー・ラヴも使用していたのか、(コートニーはホールというバンドでボーカル/ギターを務めている)
ストラップピンが上の角部分と下の角部分に付いており、買ったときはなぜか3個ついていたそう。
カートは自身の使う側のストラップピンをシャーラーのロックピンに交換している。
余談だが、カートが有名になった後もこの特異なスペックのジャガーの元の持ち主は判明していなかったが、2014年についに判明した。http://ro69.jp/news/detail/105767
神田商会などからコピーモデルが販売されているが、2011年、ついにFenderからカート・コバーン・ジャガーとして発売された。右用、左用がある。
・Fender Mustang ’69
69年製のコンベンションシリーズで、コンベンション・バーガンディのムスタング。数本所有していたという。
代表曲「Smells Like Teen Spirit」のPVでも使用されているため、ジャガーと並ぶほどのカートの代名詞。
3本のレーシング・ストライプが入っており、カートは「ブルー・ムスタング」と呼び愛用していた。
ピックアップは判明していないが、リアは黒いカバーのためシングルサイズハムであることがわかる。おそらくSeymour DumcanのSHR-1。
ブリッジは安定性の高いゴトーのチューン・O・マチックに交換されている。
ただし、ジャガーやジャズマスター、ムスタングなどのブリッジ交換は定番とはいえ、
1 シムなどを挾み弦高を上げなければならない
2 ブリッジの弦の間隔がより狭くなる。
3 ブリッジを支えるスタッドを抜いてチューンOマチック用のスタッドを入れるための加工が必要。etc…など、なかなか大変な側面もある。
しかし、カートのようにかき鳴らすスタイルではチューニングの安定性や弦落ちを考慮すると必須か。
以前は神田商会からコピーモデルが販売されていたが、2014年にFender Japanの生産元が変わってからは販売が終了。
こちらは下にあるジャパン製のマスタングと掛け合わせたようなものになっていた。
・Fender Mustang ’60s
赤だと思われるが、モノクロ処理のため不明。ゲフィン版In BloomのPVで使用。
・Fender Mustang 60’s
68年以前の物。サブポップ版In BloomのPVで使用。
白ボディにピックガードはなし、黒いハムが一つだけ搭載。
謎の多いギターで、トーンノブもスイッチもなし、ブリッジもストラト用と思われる。
・Fender Mustang ’60s
89年ごろ使用。60年代のムスタング。もともとの塗装ははがしてあり、サウンドガーデンのステッカーが貼られていたという。
フロントピックアップはなし。リアがレスポール系のクロムのハムになっており、彼の使用していたムスタングとは異なった印象。
・Fender Mustang ’70s
89年ごろ使用されていた模様。
サンバーストで右利き用を左用に改造したもの。
70年代の物らしく、ペグは白、ピックガードはバーロイド。
フロントピックアップはなし、リアはP-90だったという。
その年に破壊。
など。
基本はムスタングでも、必ずと言っていいほどハムかシングルサイズハムに換装されていた。
・Fender Jag-stang
フェンダーとカートが共同開発したモデル。
93年から少しだけ使用していた。
ジャガーとマスタングを掛け合わせたようなモデルであり、カートがムスタングとジャガーを写真に撮り、それをカートが切って紙に貼ってデザインした。その後フェンダーから正式にカートにデザインの要請があり、スペックなどを決めていった。
Jag-stangの名の通り、Jag(ギザギザ)したムスタングという意味もある。全体的にムスタングベースで作られており、ネックはカート所有のムスタングからタイプが選ばれ、それを元に採寸された。薄めのネックで、スケールはショート。フロントはムスタングのシングル、リアはディマジオ、JBを付け替えて使用していた。
カートは弾きやすさではムスタングを、音やデザインではジャガーを気に入っていたため、それを掛け合わせたということか。
サドルはギターテックのアーニーによってゴトーのチューン・O・マチックに換装されている。
Fender Japanから後に販売されたが(現在は生産終了)、カートからフェンダーへの伝達がうまくいかなかったらしく(もしくはコストの関係から)サドルはムスタングの物であり、PUは安価なものに付け替えられていた。
カートがステージで使用したソニックブルーのジャグスタングはカートの死後、コートニーによってR.E.Mのピーター・バックに贈られた。
ピーターはR.E.Mの「what’s the Frequency, Kenneth?」のPVで使用している。
・Fender Telecaster Thinline ’70s
92年にカートが同郷の先輩であるマッドハニーのライブに参加した際、ソニック・ユースのギタリスト、リー・ラナルドから借りたもの。
・Fender Music Master ’65
65年製。
ライブやレコーディングで使用されてはいないが所有していたそう。
死後、コートニーから当時RED HOT CHILI PEPPERSでギターを務めていた元ジェーンズ・アディクションのデイヴ・ナヴァロに贈られた。
・Fender Japan
・Fender Japan Mustang MG69
93年ごろから使用していたソニックブルー、赤ピックガードのジャパン製ムスタング。
リアはJB、もしくはスーパー・ディストーション。ストラップピンはロック式になっている。
ブリッジはやはりチューン・O・マチック。
当時Fender USAではムスタングは製造しておらず、Fender USAから当時リイシューとしてムスタングを生産していたFender Japanへ依頼し、日本で制作された。
コスト的に合わせるため10本製作され、青が3本、赤が3本は完成。残りの4本は製作中にカートが死去したため中断し、完成したボディとネックは通常の販売用ギターとして出荷されたそう。
イケベ楽器から別注のカート仕様ムスタングが販売されていたが、フェンダー・ジャパンブランドが無くなったため、生産も完了されている。
・Fender Japan Mustang sonic blue
ソニックブルーの物を数本所有。
・Fender Japan Mustang fasta red
フェイスタレッドで、中古で入手したそう。
赤べっこうピックガード、フロントはシングル、リアはSeymour DuncanのJB Jr
カートはこのモデルを気に入り、Fender Japan製のムスタングを使用するきっかけになったという。(93年12月10日のライブ終了後のインタビューでも「日本のムスタングが気に入っている」と発言)
・Fender Japan Stratocaster white
92年に使用。
白ボディで、リアはシングルサイズハムを搭載していたが破壊された。
シリアルナンバーはK 039702だという。下記のストラトと同一の可能性あり。
・Fender Japan Stratocaster white
同じく92年、特に「MTV MUSIC AWARDS」に出演した際に使用された。
白ボディ、リアはシングルサイズハム。おそらくSeymour DuncanのSHR-1。
シリアルナンバーはK039704。
・Fender Japan Stratocaster ”Vandalism”
92年まで使用。
黒ボディ、リアはSeymour DuncanのJB。
カートの使用するストラトではかなり有名な、「Vandalism:As Beautiful as a rock in a cop’s face」と書かれたステッカーがボディに貼ってある。アリゾナのThe Feederzというバンドから贈られたステッカーとのこと。
シリアルナンバーはI006414だという。89-90年に製造された物。
何度も破壊され、ネックもFender MexicoやFernandesなどのネックをつけていたこともある。(動画ではフェルナンデスのネックがつけられている)
Vandalism: Beautiful As a Rock in Cop’s Face【中古】
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・Fender Japan Stratocaster white body K
白ボディ、リアは黒ハム。
ボディにKのマークが入っている。KAOSレコードという会社のロゴマークで、
カート自身の左腕にもタトゥーが入っている。
・Fender Japan Stratocaster CAR
57年のリイシューモデル。91年ごろ使用。
メイプルからローズウッドネックに交換し、JBを載せている。色はキャンディアップルレッドで白のピックガード。カート自ら破壊。
・Fender Japan Stratocaster
黒ボディ白ピックガードで黒いハム。
NevermindのボーナストラックであるEndless Namelessで使用。
破壊され、現在はハードロックカフェに展示されているそう。
ほかにも数本所有。
・Fender Japan Telecaster
カートの所有していたテレキャスターはすべてジャパン製。
もともと赤いサンバーストだったが、カートが自らペンキで青く塗装。裏面は塗装しておらず、サンバーストのままだった。
ハートの絵やコートニーの名前が彫られている。
リアは珍しくシングルで、92年の日本公演でも使用されていた。
93年に破壊。
・Fender Japan Telecaster Custom
93年にFender Japanから贈られたそう。
ギターテックのアーニーが改造し、ピックアップはフロントにギブソンのPAF、リアはJB。ペグはゴトーに、サドルは6WAYに。
結構気に入っていたそうで、自宅でこのギターを使用してデモテープが製作された。
色はサンバースト。
OTHER ELECTRIC GUITAR
・EPIPHONE ET270(Model 1820T)
日本製で、70年代のエピフォン。
90年ごろよく使用していた。
・ARIA PRO II Cardinal Series
上記のET-270を破壊したため、その後使用していた。
80年代のアリアから販売されていたもので、CS-250かCS-350あたりと思われる。
色はナチュラル系。
・Univox Hi-Flyer phase 4 white
カートの使用ギターでジャガー、ムスタング、ストラトと並んで有名なモズライトのコピーモデル、ユニヴォックスのハイフライヤー。
86年ごろから使用し始めた。
univoxは荒井貿易(現在のAria Pro2)が輸出していたモズライトのコピーモデルで、初期モデルのPhase 1から最終モデルとなったPhase 4まで存在。
カートはアマチュア時代からこれを愛用していた。
白は二本所有しており、「Heart Shaped Box」のPVでも使用されているもののシリアルナンバーは037472。
後に破壊され、現在はドラマーでフー・ファイターズのフロントマンであるデイヴ・グロールが保管している。
もう一本は最後のツアーにも持って行ったほど気に入っていたという。
その他、ナチュラルやサンバーストも所有。安価だが60年代ほどの日本製。
筆者も所有している。別記事で紹介しているが、荒々しい音。
番外編 UNIVOX(ARIA) Hi-Flyer Phase 1
現在はEASTWOOD GUITARSからカート仕様として販売されている。
・Ferrington Custom Guitar
ギタービルダーのダニー・フェリントンにカートが依頼し、完成したムスタングタイプのギター。
ローズウッド指板にハート形のインレイが入っている。
バルトリーニのピックアップを3つ使用。S-S-Hで、フロントのPUのみ斜めに配置されている。リアハムはコイルタップができる。
基本はムスタングシェイプであり、ピックガードは赤で、コントロール部分まで伸びている。色はソニックブルーをさらに薄めたような色。シールドのジャックはストラトなどに採用されている舟形ジャックである。
重量が結構あったようで、ライブでは使用されずレコーディングのみの使用となった。
・Earnie Made Stratocaster type
92年のレディングで使用されたストラトタイプ。
ギターテックのアーニーが製作・・というか部品を購入し組み立てたギター。
リアはシングルサイズハムでブレードタイプなので、たぶんSeymour DuncanのSHR-1。
ロゴはフェンダーだが、アーニーが通販でデカールを購入して貼り付けたとのこと。
・Hagstrom H-Ⅱ
日本ではあまり馴染みがないものの、パンクやハードロック方面で愛されているスウェーデンのギターメーカー、ハグストロム。
有名なところではイン・ユーテロ期から加入した現フー・ファイターズのパット・スメア(この動画でも使用している)や、イギリスのハードロックバンド、ザ・ワイルドハーツのジンジャーなどが使用。
・Fernandes Stratcaster type
恐らくほとんど使用せずに破壊。
・Gibson SG Standard
Dドロップチューニング(6弦のみ一音下げ)で使用された。90年ごろ。色は青。
・Framus Electrona(model 5/170)
雑誌の撮影で使用。
その他、様々なギターを使用していた。
ACOUSTIC GUITAR
・Martin D-18E
世界で238本しかないエレキアコースティックギター。
MTVアンプラグドで使用された。ピックアップは色々つけられていたようだが、最終的にはバルトリーニの物に落ち着く。
希少性とカートが使っていたという効果で100万円前後する。
構造上、Gibson J-160Eと同様でアコースティックギターの音をそのまま出力するのではなく、実質的にフルアコと考えるべきスペック。
以前、Stafford SF-S1というコピーモデルがクロサワ楽器から販売されていた。
・EPIPHONE TEXAN ’61
93年に多用されていた61年製のテキサン。ポール・マッカートニーが「Yesterday」を録った時に使用されたことでも有名。
GibsonのJ-45とほぼ同じだが、こちらの方がスケールが長く、音の張りもある。
ピックアップはいろいろ付け替えた末、バルトリーニの物がついていたそう。
現在はこれを模した復刻版がエピフォンから比較的安価に販売されている。
カート自身は上記のD-18Eよりもこちらの方が気に入っていた(使用頻度からも)と思われる。
・Martin D-18 50’s
エレアコではない、普通のD-18.1950年代製。
・TAKAMINE
・Stella
・Ibanez
・Ovation
などのエレアコも所有。
まとめ
NIRVANAのカート・コバーンが使用したギターを紹介しました。
こうして羅列してみると非常に多くのギターを使用していますが、ほとんどは破壊しており、実際に多用されたのはジャガーとムスタング(ジャパン製も)、ハイフライヤー程度ではないでしょうか。
しかし、ほぼ全てのモデルに共通しているのが、チューニングの安定性を図るためチューン・O ・マチックにブリッジが換装されていること、そしてリアのピックアップがハムバッカー、またはシングルサイズハムに換装されていること。
音の厚みを出し、静かなヴァースと激しいコーラスという対比を曲に取り入れていたカートにとっては無くてはならないパーツの一つだったように思います。
安価なギターや機材も多く、何よりシンプルなギター・ワークは初心者にも真似がしやすいのではないかと思います。